物語分析8号室

物語を分析して、糧にするブログ

掏摸

 

著:中村文則

掏摸を生業にしている男。ある日以前一緒に「仕事」を立花が目の前に現れ「あいつがまた何かやろうとしている」と告げられる。あいつに見つかった男は自分の命がかかる仕事をささせられるが、その仕事は難関だった。


犯罪小説、というより題名の通りスリ小説。しっかりと調べているらしく、スリの手口の描写がすごい。つい感心してしまうくらい。テイストは違うが伊坂さんの書く物語にもスリの天才キャラがいたが、あちらとは描写力が違う。読んでるこちらまで緊張してしまった。ただしエンタメ性はこちらはない。でも最後のスリはすごかった。どうやって盗るのだろうと本当にわからなかったので、そうくるのか、と高揚しました。
 主人公は自分の人生を悲観しているというか達観しているというか。ある親子との出会いによって自分の生きたいという感覚を得ることになるのだが、その過程はとても静かでじっとりと滲んでいく感じがいい。よくある親子が生きがいになってそれのために敵と戦う、みたいな物語ではない。
 あとこの物語には謎の男・木崎の存在感がすごい。自分を神のような存在と評価し、主人公の運命は木崎があらかじめ用意したものだとしている。そういった意味ではこの物語は、神対主人公と言えるだろう。どうやら「王国」という小説にも出てくるらしいので機会があったら読んでみたいと思います

 


ざっと物語り

 

 

スリを生業にしている主人公の前に以前とある仕事を一緒にした立花が現れ、「あの男がなにかしようとしている」と忠告をする。主人公はスーパーで万引きをしている親子に出会い、バレてるからやめろ、と忠告したことをきっかけに関わることに。それ以来子供にお金を渡したり、スリのお手本を見せたりなど、お世話していくことにより、次第に情が沸く。しかし男に見つかり、その親子や主人公の命などを引き換えに仕事を手伝うことに。なんとか仕事をやり終えた主人公だが、その男木崎は最初から主人公を殺すつもりでいた。瀕死の状態だったが、生きたいと思った主人公は、無意識に盗んでいた500円玉を宙に投げ、自分がいることを通行人に知らせ、物語の幕は閉じる。

塔:主人公が幼いときからなぜか見えていた巨大なもの。主人公もそれがなんなのかわかっていない。スリをすることでどんどん遠ざかって見えなくなっていたが、また最近見えてきた。
木崎:悪の権化ともいえる存在。自分を神のような存在と言っている。それは自分の考えた通りに物事が進んでいくからというもの。主人公は神に挑む、とも言える。